角井 ドイツ! 

沼田 そう、ドイツに行ったんです。たまたま「日独学生青年リーダー交流事業」っていう文部科学省が委託している事業があったんですね。 

角井 うん。 

沼田 日本人15名くらいとドイツ人15名くらいの学生が異文化交流するみたいなのがあってそれに応募したらたまたま選ばれまして。それで一応日本団の代表ということでドイツに2週間と日本で2週間、交流をやらせていただいてですね。 

角井 二週間も。二週間と二週間 

沼田 そうですね計4週間なんですけど、その中で何をやっていたかというと主に「差別やいじめとか自殺とか宗教問題とか移民問題とか社会参画をどうしたらいいのか」とか「ボランティアはどうやって始めたらいいのか」とかそういった意外と大人なことをテーマにみんなで議論し合うっていうこと 

角井 議論し合う 

沼田 はい。それを4週間くらいやってまして、それがすごい勉強になったんですけどそのドイツで行った先に研修でラーフェンスブリュックっていうところがあるんですけど、そこの強制収容所の施設に見学に行ったんですよね。 

角井 うん。 

沼田 そこは広島の原爆資料館みたいな感じでナチスドイツの歴史を見たり映像を見たり、実際にその収容所に入っていた人のお話を聞いたりさせていただいたんですけど。 

角井 ほう。 

沼田 それでこの経験をした人はあまり多くないと思うんですけど、そこに実際に行って本当に非人道的な映像とか見せられたり聞かされたりするんですよ。例えば「人の死体の山があってそれをブルトーザで運ぶ映像」とか本当にそういったものを見せられてこんな非人道的なことが実際にあったんだっていうことをすごく高い臨場感で味わわせてもらいました。それでドイツを回っているとベルリンの壁の跡地がいたるところにあったり 

角井 うん。 

沼田 あと街を歩いていると石畳があるんですけど、「これは実は強制労働で奴隷たちが作った石畳なんだよ」みたいなことを言われたりして、本当に戦争の臨場感とかを感じた瞬間でした。そういった臨場感を持ちながら(この対談までの)10年間は一応生きてきたんですけど、みなさんにこの臨場感を伝えたくてお話ししました。 

角井 はい。 

沼田 なぜこの話をわざわざしたかっていうとナチスドイツのこの歴史と「現状の外側にゴールを設定しなければいけない」っていうのは非常につながる部分が実はあるんですよね。それがなぜかっていうとナチスドイツの歴史、これをもう繰り返さないためにどうしたらいいかっていうことをすごく考えた哲学者たちがいてそれに対する論理、その哲学的帰結と「現状の外側にゴールを設定しなければいけない」ってことがすごく似ているんです。 

角井 へぇ。 

沼田 フランクフルト学派っていう哲学者たちが導きだした帰結なんですけど、「人間は道具的理性に支配されて生きているとこういった過ちをもう一度繰り返す」ということを言っていて、道具的理性っていうのは何かというと、「ある目的があった時に感情を排して淡々とただその目的を達成していく」といったものです。それに対して人間は批判的理性を持たなきゃいけないということを言ってるんですよね。道具的理性のように淡々とただその目的を達成する理性だけじゃなく、目的そのものを疑う批判的理性を人間は持たなきゃいけない。目的そのものまたはその目的を達成するための手段、それを批判的に見る姿勢っていうのを持っていないと人間は機械的な動物になってしまうと言ってるんですよね。 

角井 うん。 

沼田 で、そのなんですかねこれが本当に現状の外側にゴールを設定するときのマインドのプロセスとすごく似ていて 。

角井 なるほど 。

沼田 はい。現状の外側にゴールを設定するときってまず現状を疑えないといけないじゃないですか、現状に設定されている自分のゴールは何だろうってことを理解した上でそれを否定して外側にゴールを設定しなきゃいけないんですけどその否定するっていうプロセスが批判的理性そのものなんですよね。でその批判的理性と道具的理性の話全部ひっくるめて「批判理論」っていうんですけど。 

角井 批判理論。 

沼田 はい。その批判理論には「もう二度と残虐な歴史を繰り返さないために次の人類は平和に過ごしてほしい」っていうフランクフルト学派の哲学者たちの思いが込められていて、ルータイスや苫米地博士は実はその思いを継いでいるんじゃないか。おそらく博士もルーもすごい平和主義者ですし、こういった哲学的なことを知らないわけがないと思うんですよね。それでその批判理論を応用してゴールを現状の外側に設定するっていうものに翻訳したのかなって個人的には思っています。でこの博士の思いっていうのを苫米地式コーチングやタイス式コーチングにシステムとして込められているんですよね。それを私たちコーチはもっとしっかり意識しなきゃいけないなあと思っています。 

角井 なるほど。 

ルーのレガシーを継ぐことが大事 

沼田 よく「オーセンティックコーチングは現状の外側にゴールを設定することだ」と言ったりするんですけど、現状の外側にゴールを設定するということが単なる自己啓発の技術であったり自己実現のための技術だと思われてはいけないと思っていて。 

角井 そうですね。 

沼田 はい。その現状の外側にゴールを設定するというのは彼ら哲学者たちの思いとかルーの思いとか博士の思いが中に込められているんだよって言うのをよく意識した上でみんな伝えていってほしいなと個人的には思っています。 

角井 深い思いですよね。 

沼田 深い思いです。これ思いついたのは割と一年前ぐらいなんですけど、毎回「自分はコーチングわかった!」っていう気になるんですよね。「もうコーチング完全にわかった!」と思って(笑)。 

角井 (笑)。 

沼田 思ったら数か月後ぐらいには、全然わかってなかったってこういう気づきがあったっていうのがよくあるんですけどこれも一年くらい前に思った時にそういえば田島コーチがずっと同じこと言ってるなと思って。 

角井 スコトマが外れたんだ。 

沼田 田島コーチって登壇されると最後には「ルーのレガシーを継ぐことが大事だ」っていうことを言うんですよ。それを聞いてた時はあんまりピンとは来てはいなかったんですけど、その時になって初めてルーのレガシーってそういうことねって。この思いのことをずっと田島コーチは伝えようとしてたんだなっていうことに気づかされまして、いやすごいなあと今思っても思いますね。 

角井 今まで聞いてた田島コーチの言葉は同じでも受け取り方が随分変わられたということですね。 

現状を疑う視点、マインドを常に持っておくこと 

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